国東半島山ガイド
四方山話その2 行者窟と峠


 掲載No.22の「峠」は、故梅木秀徳氏著「大分県主要山岳丘陵島嶼一覧」に掲載されていてピークらしいピークでもないが名前が独特なので調査対象とした。当初は夷谷の前田から見目谷の山ノ神を結ぶ林道山ノ神・長小野線のまさに峠から入るルートを設定し、古い国土地理院地図の三角点(現在は林道側の展望の良い場所に移設されている)に山頂標識も設置した。
 しかし、峠から「峠」(ややこしい)へのルートはほぼフラットで時間も15分程しかかからないことからあまり魅力を感じられず、一旦は掲載の山から除外していた。
 その後2017年のことである。その年の六郷満山の峯入りは、行入寺の隈井住職が主になって調べた昔の文献に基づき、江戸時代までに行われていた峯入りを再現し約1ヶ月かけてまわるということだった。その峯入りのルートにガイド本に参考になるルートがもしかしたらあるかもしれないと思い、図々しくもその年に行入寺の隈井住職に話を聞きに行った。
 見知らぬ者の訪問にもかかわらず、隈井住職は持っていった地図をもとに峯入りルートを丁寧に教えてくれた。今だから言えるがこのルートのことは決して口外をしないで欲しいと言われていた。そのルート上にはいくつもの岩屋がありその岩屋の名前と場所も教えてもらった。
 その岩屋の中の一つに夷谷の行者窟がある。前述の林道山ノ神・長小野線の途中にそのような看板があったことを思いだし、後日他の山調査のついでに寄ってみた。するとそれは思いもしない見事な岩屋で、国東半島の中の岩屋では3本の指に入るといっても過言ではないのと思われた。そしてこの時は地図を持参していなかったが、その岩屋のある稜線はきっと「峠」に繋がっていると確信した。
 後日、その岩屋の横から尾根に上がり辿っていくとまさに「峠」の山頂稜線に出た。そして、この岩屋を経由し、途中素晴らしい展望も広がる魅力満載の新ルートによる「峠」は、見事に返り咲いたのでした。

※実は、行入寺の隈井住職はお話を聞いた数か月後の2018年の2月に急逝してしまいました。一回しかお会いしていませんが何か人を引きつける魅力のある方でした。ガイド本完成の報告を兼ねたお礼ができなかったことがとても残念です。
あまり目立たない行者窟入口道標
行者窟
行者窟の由来
途中何か所か展望所が。宇佐中津方面も見渡せる
山頂標識
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